水素の製造・供給・利用が広がるなか、水素中に含まれる微量不純物を正確に把握する技術の重要性が高まっています。特に燃料電池用途では、CO、硫黄化合物、水分、アンモニア(NH3)などの微量成分が性能や耐久性に影響するため、水素品質規格ISO 14687でも厳しい管理値が設定されています。
なかでもアンモニアは、PEM(固体高分子形)燃料電池に影響を与える不純物の一つです。また近年では、アンモニアを水素キャリアとして利用する技術開発も進められており、水素中に残留する微量アンモニアを正確に測定することは、水素関連の研究・品質管理における重要なテーマとなっています。
ppbレベルで求められるアンモニア分析
ISO 14687では、燃料電池用水素中のアンモニアについて100 nmol/mol(0.1 ppm)という低い上限値が設定されています。このような濃度領域では、分析装置にはppbレベルの感度だけでなく、低濃度域での安定性や再現性、さらに迅速な応答が求められます。
2025年にドイツ連邦材料試験研究所(BAM)などの研究グループが発表した研究では、水素中の約38~112 nmol/molという微量アンモニアが分析対象とされました。ISO 14687の管理濃度付近を含む領域で実際に測定評価が行われていることからも、水素品質分析において数十ppbレベルのアンモニア測定技術が重要になっていることが分かります。
微量アンモニアの変化をリアルタイムに捉える
水素品質分析では、規格値への適合を確認するための測定だけでなく、製造・精製プロセスにおける微量不純物の変化を継続的に把握することも重要です。
例えば、水素の製造や精製では、運転条件やプロセスの状態によって不純物濃度が変化する可能性があります。そのため、微量アンモニアを高感度かつリアルタイムに測定できれば、濃度の推移や一時的な変化を捉え、プロセスの評価や品質管理に役立てることができます。
高感度と高速応答を両立するレーザー分析技術
こうした水素中の微量アンモニアのリアルタイム分析を可能にする技術の一つが、AP2E社のProCeasに採用されているOF-CEAS(Optical Feedback Cavity Enhanced Absorption Spectroscopy)です。
OF-CEASでは、レーザー光を光学キャビティ内で繰り返し往復させることで非常に長い実効光路長を確保し、微量成分を高感度に測定します。2025年の研究では、約6.17 kmの実効光路長を利用して、水素中の数十ppbレベルのアンモニアが測定されています。
このように、ppbレベルの高感度測定とリアルタイム性を両立できることは、水素品質分析におけるレーザー分光法の大きな特徴です。AP2E社ではこの技術を水素品質分析向けのProCeas H2 Purityにも展開しており、NH3をはじめ、H2O、CO、CO2、H2S、COS、HClなど、水素品質管理に関連する複数の微量成分を測定対象としています。
水素製造プロセスの監視、燃料電池用水素の品質確認、研究開発など、水素の利用領域が拡大するなか、高感度かつリアルタイムに微量不純物を把握する分析技術の重要性は今後さらに高まると考えられます。
参考文献
Trace-Level Ammonia–Water Interactions in Hydrogen: Challenges in Gas Purity Analysis Using Optical-Feedback Cavity-Enhanced Absorption Spectroscopy (OF-CEAS)
M. E. Bayat, H. Kipphardt, C. Tiebe, D. Tuma, C. Engelhard
ACS Measurement Science Au 2025, 5(6), 897–911
DOI: 10.1021/acsmeasuresciau.5c00105

